エンバーミングの基礎知識と方法
終活や葬儀の相談をおこなっている中で、「エンバーミング」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。エンバーミングとは、故人の遺体を保存し、見た目を維持するための技術です。エンバーミングは単なる遺体処理にとどまらず、故人を敬う気持ちや、残された家族への配慮が詰まったプロセスでもあります。 ここでは、エンバーミングの手順や費用など詳しく紹介します。
目次
エンバーミングとは?その基本と重要性に迫る
エンバーミングとは、故人の遺体を保存し、見た目を整えるための技術です。遺体を表面的に整える納棺師の施術とは異なり、エンバーミングはさらに遺体に化学的・外科医学的防腐処置技術を施すことによって、外観的に変化することなく長期間の保存を可能にする方法です。亡くなってからしばらく火葬を行えないなど、遺体を長期間保存する必要がある場合に施されます。日本では1995年の阪神・淡路大震災などで広く知られるようになりました。エンバーミングの処置件数は年々増加しており、1995年から2020年の25年程で約5倍になっています。
故人を愛するための技術:エンバーミングの歴史
エンバーミングは、歴史的には古代エジプトに遡ることができます。当時、亡き人が来世での生活を送れるよう、遺体を保存する技術が発達しました。その後、近代に入り、エンバーミングは医学的な手法を取り入れ、一層洗練されたものに進化しています。現在のアメリカでは、エンバーミング率が90%を超えています。そのきっかけとなったのは1861年~65年の南北戦争でした。亡くなった兵士の遺体を故郷にいる遺族の元へ帰すためです。日本では火葬して遺骨を持ち帰るという方法を取ることができますが、アメリカでは土葬が主流で、故郷での埋葬を望んでいる戦死者が多かったことから、移動の際の遺体保全を目的にエンバーミングが行われました。アメリカの次にエンバーミング率が高い国はカナダで、90~95%です。次に、北欧ではイギリスが75%、アジアのシンガポールでは70%となっています。土葬が主流の国でエンバーミング率が高くなる傾向にあります。土葬された遺体が腐敗し体液が地面に染み込むと、地下水に影響を及ぼす可能性があります。感染症も懸念されるため、土葬前にエンバーミングが行われます。
エンバーミングのプロセスを詳解:方法と手順
①書類提出
エンバーミングを行うためには、いくつかの書類を提出することが必須となっています。エンバーミング施設に「エンバーミング依頼書(同意書)」と「死亡診断書(死体検案書)」を提出します。書類の提出時に故人の生前の写真を提出することによって、顔の修復に役立ち、遺族の持っているイメージにより近づけることができます。
②移動
故人を安置している場所からエンバーミングを行うことができる施設に遺体を搬送します。
③洗浄・消毒
遺体の状態を確認した後に、表面の洗浄や消毒を行います。
④洗髪・洗顔
洗髪や洗顔、髭剃り産毛処理を行ったのち、保湿剤を塗り顔や顔周りを整えます。
⑤体内洗浄・防腐保全処置
体の一部を切開し、血液や体液などを排出します。体内に保全液(防腐剤など)を注入します。動脈から防腐剤を注入し、同時に静脈から血液を抜きます。切開する場所は、故人状態によって異なりますが、約1cm~1.5cm切開します。腹部に小さな穴を開けて胸腔や腹腔に残った血液や残存物を吸引し、その部分にも防腐剤を注入します。
⑥縫合・洗浄
メスを入れた部分などの縫合・修復を行います。事故などで顔や体に損壊がある場合には、損壊部分の修復も行います。縫合・修復が終わったら、最後に全身を洗浄し、衣服を着せて表情や髪の毛を整えます。
⑦化粧
ご遺族の希望があれば、化粧を行います。
エンバーミングにかかる時間は、ご遺体の状態にもよりますが一般的には約3~4時間かかるので、半日程度を目安に考えておくとよいでしょう。
メリットとデメリット
《メリット》
●ゆっくりとお別れができる
ご遺族は、葬儀の準備などに追われて、なかなか故人とゆっくりお別れをすることが叶いません。エンバーミングを行うことで葬儀の日程を急ぐことなく、心の残りのないよう故人との時間を過ごすことができます。
通常、火葬までに時間がかかる場合、ドライアイスを使用して腐敗を防ぎます。火葬までに日数が空く場合、1日当たり1万円前後のドライアイス代が追加でかかる場合もありますが、エンバーミングは、消毒・殺菌を行って薬剤で腐敗を防止するため、常温でご遺体の長期保存が可能となります
その為、海外で亡くなった遺体を帰国させる際でも、生前の姿に近い状態で日本に帰国し、葬儀・告別式を行うことができます。
●死後硬直や感染症を防ぐ
通常、ご遺体の約6割程度が何らかの細菌やウイルスを持っているといわれています。ご遺体の中でウイルスは生き続け、増加する可能性があるため、感染症を予防するためにも、エンバーミングは効果的です。使用する防腐剤には滅菌効果があるため、エンバーミングを行うと体内の細菌は30分以内に滅菌されます。また、エンバーミングを行ったご遺体には死後硬直がありません。遺族や参列者は故人と触れ合ってお別れをすることが可能になります。
●故人の生前の姿に近い状態でお別れできる
エンバーミングは、故人の生前に近い姿でお別れできるよう、ご遺体の状態を修復できます。事故などによってできた傷をきれいに治したり、顔色が悪くなっている場合には調整したりすることで、ご家族や弔問者の悲しみを軽減する効果があります。
《デメリット》
●遺体にメスをいれる
エンバーミングは、血管に防腐剤を注入するために皮膚にメスを入れます。傷は1.5cmほどで最小限にしますが、遺族の中には遺体にメスを入れることに抵抗を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
●故人と離れる時間がある
エンバーミングを行う時には、ご遺体と離れなければなりません。エンバーミングを行うことができる特別な施設に搬送して施術しますので、すぐに自宅に連れて帰ってあげたい、片時も離れたくないという方がいらっしゃると、ご家族の同意を得る必要があります。
●費用がかかる
エンバーミングは、葬儀の費用とは別に負担が発生します。相場は15万円から25万円ほどですが、金額は遺体の状態によって変わります。
最後に・・・
エンバーミングは生前のような姿に近づける特殊な技術で、故人に安心して触れながら、最期のお別れの時間をゆっくりと過ごすことができます。日本ではまだまだ必要に迫られてエンバーミングを行う人が大半ですが、施術後の故人の顔を見れば、悲しみが少しなりとも軽減されるのではないでしょうか。メリットと注意点を見極めて、家族みんな納得の上で決断を下しましょう。