遺言書の付言事項活用法
近年、終活の重要性が広がり、多くの人々が自分の意思をしっかりと残すための手段として遺言書を見直すようになっています。遺言書の中でも「付言事項」は、単なる相続内容の明示だけでなく、自分の想いやメッセージを表現する貴重な機会です。本ブログでは、付言事項とは何か、その具体的な役割と活用方法について詳しく解説します。遺言書作成にあたっての心構えや、付言事項を通じて自分の人生の総括を行う方法など、多様な視点から終活を考える一助となることを目指しています。ぜひご一読ください。
目次
まず遺言書とは
遺言書は、自分の財産を誰にどのように残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための手段です。 個人が亡くなった後の財産は、遺言書がない場合は、相続人全員の話し合いによって遺産の分け方が決められます。しかし「法定相続人以外にも財産を残したい人がいる」、「不動産を特定の相続人に相続させたい」、「遺産分割で争いになるのを避けたい」等という意思や想いがある場合は、遺言書が必要です。
付言事項とは何か?自分の想いを伝える方法
遺言書の内容は、主に相続財産の分配方法が書かれますが、それだけでなく「付言事項(ふげんじこう)」という項目を設けることもできます。付言事項とは、自分の想いやメッセージを自由に書き記すことができる記載事項で、家族へのメッセージや葬儀・納骨に関する希望など記載することができます。
遺言書に記載すれば、何でも法的に認められるわけではなく、決まった事項しか法的効力はありません。その事項を「法定遺言事項」といい、●相続分の指定や遺産分割方法の指定、●特別受益の持ち戻しの免除、●推定相続人の廃除、●遺贈、●子の認知、●遺言の内容を実行する遺言執行者の指定、●祖先の祭祀を主宰する祭祀承継者の指定などです。
付言事項は記載しても法的な拘束力を持ちませんが、うまく使えば相続に伴うトラブルや衝突を回避できることもあります。
付言事項の具体例
付言事項を書く位置や分量についてですが、書く場所は遺言書の最後に書くことが一般的で、法定遺言事項を書き終えた後に、なぜこの分配方法にしたのか理由を付け足すイメージです。遺言書は法定遺言事項がメインの為、付言事項の分量は簡潔にするとよいでしょう。たくさん書きたい場合は、手紙やエンディングノートを併せて活用しましょう。
具体例を紹介します。
●妻に全財産を残したい場合
相続人が妻と子供が2人のケースで、目立った遺産が自宅の土地家屋しかない。妻の住処を残すためには遺産の割合を妻に集中させないといけませんが、そうすると子供達の遺留分(最低取り分の保障)を侵害するので、権利行使されると妻は住処を売却される可能性も出てきてしまいます。
《例文》
『私の妻○○には介護などで大きな苦労をかけてしまった。年老いた○○には住み慣れた自宅を残してやりたいと思い自宅と土地を相続させるが、長男○○、次男○○、私の最愛の妻をよろしく頼みます。家族の思い出がいっぱいに詰まった我が家をいつまでも大切にしてください。これが父の最後のお願いです。皆くれぐれも体には気を付けて。父は天国で君たちを見守っています。』
などとして、妻への遺産の集中によって子供たちが抱く不公平感をなくすよう、情に訴えた文面とすると効果的です。
ポイントは「遺留分」という言葉を入れないことです。この権利のことを知らない人もいますし、あえて知らせることも意識させる必要もないので、言葉としては用いない方が良い場合が多いです。
●介護してくれた息子の嫁に財産を遺贈したい場合
『長男の嫁である○○さんは、私自身の介護に懸命に従事してくれました。老人ホームに入ることなく、住み慣れた自宅に住み続けることができたのも、○○さんが炊事洗濯などをすべてやってくれていたおかげです。その苦労に報いるために、○○さんにも幾ばくかの遺産を遺贈したいと思います。次男○○や長女○○も長男嫁○○さんの頑張りは十分に知っていると思いますので、この判断を尊重してくれると信じています。どうかこの遺言内容で揉めることがないよう切に願っています。』
長男嫁への感謝の気持ちと遺贈する理由を書き記します。
上記にはないですが、子供達への愛情や感謝の念も忘れずに記載して下さい。長男嫁には感謝しているが、血を分けた子に対する愛情は特別なものだよ、という気持ちをうまく伝えるようにしましょう。
●葬儀方法の希望を伝えたい場合
『私の死後、葬儀についてはできるだけ簡素にしてください。
妻に先立たれた後も、長男夫婦が同居してくれたため、私は孫の面倒をみながら悠々自適な生活を送ってくることができました。たいへん感謝しています。
しかし、私の葬儀のことを考えると、とても親族が多く、また親族の信じている宗教もさまざまであるため、みなで私の葬儀方法について話し合って決めるのは大変だと思います。また、私は会社を長男に任せたあとも、顧問という立場で会社に携わってきましたので、会葬者が多くなるかもしれません。
私としては、通夜・告別式ともに家族葬にし、親しい身内のみの葬儀を望んでいます。
私が余生を楽しんでいられるのも、家族や会社の者が私を気にかけてくれるからだと感じており、葬儀のことなどで気苦労をかけたくないのです。
身内だけで葬儀を行うことは私の強い希望なので、どうか揉めることなく、今までどおり助け合って暮らしていってください。』
ポイントは、身内だけの葬儀を行うことが、本人の強い希望であることをしっかり記載することです。
また、周囲に対する感謝の気持ちを記載することで、残された人たちの気持ちを和らげることができます。
葬儀方法を付言事項として記載する注意点として、希望の葬儀をしてもらうためには、親族で葬儀の話し合いをする前に、遺言書が開示されなければなりません。
遺言書が発見されるのは、遺品整理の時などが多く、死亡直後に遺言書が発見され開示されることは少ないです。その為、生前から遺言書の存在・保管場所を明確にし、死亡直後に開示してほしい旨を伝えておくとよいでしょう。また、葬儀方法については、エンディングノートを作成して希望を記載しておくのも良い方法です。
最後に・・・
『終活』が一般に知られるようになって、遺言書が持つ意味はますます深まっています。「付言事項」は、相続の内容を明示するだけでなく、家族への感謝や自分の想いを伝えるための重要な要素です。相続トラブルを避けるためにも、付言事項を上手く活用しましょう。